私もうっかりすると忘れがちなのですが、実は私は青年心理学を専門にしているようです。そんな訳で、本日は青年期の「アイデンティティ」概念で有名な、E.H.エリクソンの名前についてお話しします。「アイデンティティ」は「自我同一性」とも訳されますが、自分が何者であるのかという意識のことですね。
さて、この「アイデンティティの確立」ですが、実はエリクソン自身が苦労して成し遂げた心理的課題でもありました。エリクソンは、オーストリア生まれのユダヤ人でもともとの名をエリク?ホーンブルガーといいました。しかし、「ホーンブルガー」という名字は母が再婚した義父のものであり、エリク青年にとっては違和感のあるものでした。エリクは青年期をボヘミアン(ヒッピー)の絵描きとして放浪生活についやしていたのですが、ある時に精神分析の始祖であるフロイト家に家庭教師として入ることになります。しかし、精神分析家となったころにはナチスが台頭してきて、エリクはアメリカに亡命せざるを得なくなるのです。
アメリカに移住したエリクは、あまりにもの文化的ギャップにアイデンティティ喪失におちいります。また「ホーンブルガー」という名字は「ハンバーガー野郎」という悪口のネタにされてしまうのです。このような逆境のなかで、エリクは心理的危機を乗り越えるべく、自らに新しい名前をつけてアメリカ人としての国籍をえます。それが「エリクソン」という名前です。Erik(エリク)のSon(息子)、つまり「自分は自分の子供である」という、まさにアイデンティティを意味するような名前をつけるのです。
「エリクソン」という名前に込められた秘密、いかがでしたか?