基礎演習科目「フィールドワークの実際」は、心理?教育専攻の2年生が履修する実習形式の授業です。
相手の話をしっかり聞いて適切な質問を投げかける「インタビュー法」のスキルや、インタビュー等によって収集した膨大なデータの中から新たな発見や隠れた構造を見つけ出す「KJ法」のスキルを修得します。
そして最後に学ぶのは、なんと「ゲーム」!
ゲーム感覚を取り入れたワークショップによって、自分たちが暗黙のうちにもっている「あたりまえ」に気づいたり、価値観や立場の異なる人々が互いに学び合う場づくりの手法を修得します。
この手法は、正式には「ゲーミング?シミュレーション」と呼ばれています。
数あるゲーミング?シミュレーションの手法の中から、今回扱ったのは「クロスロード」。
「あちらを立てればこちらが立たず」という極限の状況で、自分ならどのような行動を選び取るかをテーマにしたカードゲームです。
まずは問題カードの具体例を見てみましょう。
このカードは、学生たちが自分で作成したものです。
(「コロナ禍をどのように経験してきたか」という研究関心に基づいて収集したインタビューデータを、KJ法によって分析した成果をベースにしています)
あなたは「大学生」。
一限と三限の対面授業は先生がコロナになったため遠隔になったが、二限は対面のままだ。通学には往復3時間かかる上に天気も悪い。しかし二限の授業はあと1回しか休めない。
学校に行く?
⇒YES(行く)
⇒NO(行かない)
さあ、あなたはYESとNOのどちらを選びますか…?!
ゲームの基本ルールは、「多数派の意見を出した人に1点が入る」です。
たとえば、5人グループで「YES」が3人、「NO」が2人という結果になったとしたら、「YES」の3人に1点ずつポイントが入ります。ただし、ある例外ルールも設定されています。
もし一人だけが違う意見だった場合、たとえば5人グループで「YES」が4人、「NO」が1人という結果になったら、今度は「NO」を出した1人だけが1点を得ることができるのです。
これら2つのルールのもとに問題カードを変えて複数回ゲームを繰り返し、終了時点でもっとも多くのポイントを獲得した人が優勝となります。
一旦ゲームが始まると、教室のあちこちから悲喜こもごもの声が飛び交います。
「よっしゃー!一人抜けーー!!」
「えーっ!そこはYES出すとこでしょー!?」
「次はガチで勝ちにいくわ…!」
もちろんゲーム中はひたすら楽しむこと、勝つことに全力を傾けます。しかし、このゲームの真骨頂は、ゲームが終わった後の対話フェーズにあります。どのようなことを考えながらゲームに臨んだのか、そしてどんな気づきや違和感をもったのかについて、徹底的に語り合うのです。
すると、自分と他者の共通点と相違点が、少しずつ見えてきます。
先ほどの問題カードの例でいえば、例えば次のような論点が明らかになっていきます。
?「対面授業」という言葉からイメージするのが、必修科目か、選択科目か。
?「往復3時間」を、耐え難い長時間ととるか、許容範囲内の短時間ととるか。
?一つの授業の単位を落とすことに、楽観的か、悲観的か。
…
こうして、ゲームによる白熱の余波も相まって、次第に互いの考え方や価値観の話題へと対話が深まっていくのです。
もともとクロスロードは、1995年に発生した阪神?淡路大震災の教訓から生まれました。
誰を優先的に救助し治療すべきなのか、救援物資を被災者にどのように分配すればいいのか、ボランティアに何をどこまで任せるべきなのか…。
こうした数々の「唯一絶対の正解がない」状況に対峙し、とにかく現場は混迷を極めたのでした。
みなさんも、コロナ禍において様々な「分かれ道」(=クロスロード)に悩み苦しんだことと思います。
今後も、また新たな感染症パンデミックに見舞われるかもしれません。
その来たる時のために、いかに日頃からコロナ禍の経験を振り返り、いかに多様な考え方や選択肢が存在するのかを実感し、そのことをお互いに理解し合うコミュニティを育てるかが、とても重要です。
このような目的を、「楽しく」、それでいて「ためになる」かたちで達成するのがクロスロードなのです。
この授業を履修した学生のみなさんが、サークルやアルバイト先、卒業後の就職先など、いろいろなコミュニティでクロスロードを実践し、活きた形で心理学を利用してくれることを願ってやみません。