‘これからの道内経済’では,円安で観光関連は底堅いものの,景気回復の一因として物価上昇に遅れている賃金水準の上昇が実現するかどうかが鍵になり,人手不足が賃金上昇に結び付くかどうか,あるいは、雇用環境の改善(正規雇用の増加など)に繋がるかどうかに依存します,と説明されました.また,アベノミクスの3本の矢に関連して,第1と第2の矢はほぼ的を射ていたと思われますが,第3の矢(成長戦略)が北海道の産業?企業にとっても大事になり,守るべき規制を保持しながら岩盤規制が取り除かれると,経済成長が持続すると期待される面もあります,と述べられました.また,異次元の金融緩和によって円安になったとしても,さらに,10月31日の追加金融緩和が行われたとしても,輸出産業の少ない北海道経済にはその政策のメリットは少なく、むしろ,円安で原材料や輸入材や建築資材の価格上昇によって,北海道の中小企業はマイナスの打撃を受けることになります.一方では、アメリカの量的金融緩和が終了したことにより,新興国からアメリカに貨幣が吸い上げられ,世界経済の減速がおこり,そのためアジアに対する日本企業の輸出などにマイナスの影響が生じるかもしれません,と懸念材料について述べられました.北海道の域際収支(輸移出と輸移入の差額)のデータから,農林水産業,飲食料品,パルプ?紙?板紙?加工紙の3分野が輸移出超過になっており,化学製品と電機?金属?機械工業の部門が輸移入超過になっていることを示され,北海道は強い部門を伸ばすことによって,北海道経済の成長が期待されます,と述べられました.
最後に,豊富な資源(水資源や人材など)に恵まれ,広大な大地の北海道には,本州にはない計り知れない可能性があります.例えば,北海道が進めている(平成23年3月に提言)「バックアップ拠点構想」、災害リスク回避のために本州企業が本社機能を北海道に分散する傾向の強まりや、広大で安価な土地の利用によって農業や漁業や林業などの一次産業のみならず再生可能エネルギーの研究?開発、「北海道フード特区」の推進,さらに,新幹線の札幌延伸による経済効果などについて,その可能性を語られました.
質疑応答では,提示された北海道の主要な指標に関しての質問でありました.全国に占める北海道のGDP比は3.7%となっていますが,以前には,5%程であったと思われますが,その低下の理由について,また,関連して北海道の一人当たり国民所得は全国平均の8割ほどである聞いていますが,その人口構成(年齢構成)は同じか否かについて聴講者から質問が出されました.前者に関しては,官依存傾向の高い北海道では公共事業の減少や,石炭産業の衰退や一次産業の低迷が影響しているのではないでしょうか.また,同じ年齢構成での比較になっているかどうかはデータからは解りません、と返答されました.
講師をお引き受けして頂きました北海道二十一世紀総合研究所 調査部長の斉藤 正広様には深く感謝致します.
経済学部 久保田 義弘