休学? 就活? 悩んだ末のワーキングホリデー
ワーキングホリデービザを利用して、外国で働きながら生活する。英文科の学生であれば、一度は夢見たことがあるかもしれません。しかし現実にはなかなかそこまで踏み切れないもの。 そんなにお金を用意できないし。 自分で何もかも考えて交渉するのはちょっと不安。しかも英語だし。 そもそも卒業延期してしまうと、就活に悪影響をおよぼすんじゃないか? そんな後輩たちのために、内定をとってあとは卒業を待つだけの5年生が、ワーキングホリデーで過ごしたカナダでの生活と、帰国してからの就職活動について語ってくれました。
–石田さんは4年生のときに休学してカナダに行かれたんですよね。きっかけは何ですか? 正確には4年生の後期に休学し、9ヶ月間アルバイトで資金を貯め、それから10ヶ月のカナダ生活に出発しました。 実は4年生になる直前の春休みに、学生生活最後の思い出作りのつもりでUCディヴィス校に行きました。5週間の短期プログラムだったのですが、そこで生活するうちに、今のままでは英語も中途半端だし、もっと長く暮らしてみたいと思うようになったのです。それで、帰国してからも就活に真剣になることができず……。 –しかし同級生は次々に就活して内定を取っていくわけですよね。焦りはありませんでしたか? レールから外れるような不安は多少はありましたね。一方で、どうして4年で卒業しなきゃならないのかという反発も生まれました。なんとなく流されて過ごしてきた自分が、やりたいことを見つけた。だったらやらなければ後悔すると思いました。 –そこで4年生の後期に休学し、アルバイト生活をしたんですね。 自分で資金を準備しなければという思いが強かったですね。ただ実際に貯められたのは40万円程度で、往復の航空券と海外旅行保険でかなりとられてしまいました。ですから、実際にカナダに降り立ったときに自分が持っていた資金は、他の人に比べても本当に少なかったと思います。 –となると、普通ワーキングホリデーに行く人がやるように、最初の数ヶ月は英語学校に行くというのは…… 考えませんでした。むしろいかに早く仕事を見つけて生活を立ち上げるか、そればかり考えましたね。日本でエージェントを利用して、ビザ取得を代行してもらい、住むところと英語学校を決めてから来るのは簡単です。しかし僕はそこにお金を使うことを躊躇しました。それよりも自力で住む場所と仕事を見つけ、少しでも早く生活を安定させようと思ったんです。実際、カナダに到着して4日目にシェアハウスを見つけ、9日目には働き始めました。
–そういう情報はどうやって集めたんですか? 日本人向けの日本語掲示板があります。まずはそこで最初の情報を集め、それから面接のアポイントメントを取りました。 –全部日本語でなんとかなったのですか? まさか、なりませんよ。職場はたまたま日系のラーメン屋でしたが、シェアハウスのインタビューは英語です。ハウスメイトはカナダ人、ロシア人、イラン人ですし、オーナーは中国人です。それに、日系ラーメン屋が職場とはいえ、客は白人が中心です。ネットで話題の店でしたので、本当にいろいろな客が来ました。 –では英語に苦労されたのですね。 壁にはぶつかりましたね。でも、英語が喋れないと思い込んだら終わりだと自分に言い聞かせ、様々な表現を工夫して、なんとか言いたいことを伝える毎日でした。少なくとも「英語がわからない」とは絶対に言わないぞと決意しました。 英語学校に通うのも一つの手だったかもしれませんが、僕の場合は資金が限られていたので考えませんでした。後で聞くところによると、英語学校は一ヶ月に1000ドルもするのに友達を作るだけで終わることが多いそうで。そういうのが必要な人にはいいでしょうが、僕は少しでも早く自活したかったんです。 –そして日系ラーメン屋で働き始めたわけですが、そこでの稼ぎで暮らしていけましたか? さっきも言ったように、かなり人気のある店でした。ですので月間200時間ほど働き、収入も十分でした。最初は腰掛け程度に考えていたのですが、結局9ヶ月間お世話になりました。ちょうどバンクーバーで火がついた居酒屋?ラーメンブームがトロントにやってきた頃なんです。オーナーが支店の拡大を考えるところなどを、横で見ることができたのは収穫だと思います。
–2013年の4月に帰国されたんですよね。すぐに就活をはじめましたか? 5月くらいから活動を始め、8月の終わりに内定をいただきました。 –新卒とはいえ、年齢的には他の学生よりも2学年上です。しかも正規留学ではなくワーキングホリデーです。このあたりで負い目はありませんでしたか? それは気にしませんでした。むしろ、自分の売りと伸びしろを相手さまにアピールすることに専念しました。 僕が企業研究する際にもっとも重視したのは、この会社が将来何をどうしようとしているのか、そして自分がそこにどう関われるのかという点でした。会社の過去は過去です。僕が会社に貢献できるのは今じゃなくて将来です。その時に会社と僕がそれぞれどうなっているのかを、常にイメージしながら活動していました。 –その結果、これから本格的に海外展開を行うサービス業に内定したわけですね。 はい。これはもう縁ですね。説明会に行って、担当の方と話をして、その場で内定をいただきました。僕のカナダでの経験や今後のビジョンと、会社の将来計画が、ばっちり一致したんです。 –カナダに行く前にも短期間、就職活動をしていたわけですが、その時とはやはり違いましたか? そうですね、一般に言う「いい企業」というものにとらわれなくなりました。ワーキングホリデーの経験を通して、道を切り開くことを学びました。与えられたパッケージを受け取るだけではなく、自分でチャレンジをしていくこと、それを通して自分の付加価値を高めていくことが重要だと。だから今、自分にとっていい企業とは何かと尋ねられれば、自分の価値を高められる場所と答えます。2年前だと旅行会社とか有名企業とか答えたでしょうが(笑) –となると、大学での経験よりもワーキングホリデーのほうが石田さんを高めてくれたということですかね。 どうなんでしょうね。大学というのは総合力をつけるところだと思うんです。僕は大学での経験が無駄だったとは思っていません。ただ僕の場合は、ワーキングホリデーに行く前は、ものごとを自分で考えることをしなかったように思います。自分の頭で考えるようになると、人は変わりますよね。いまは取り残した単位を取るべく、大学の講義を受けているわけですが、行く前よりもずっと面白いんですよ。つまり僕の場合は、大学で経験したいろいろなこと——勉強だったり部活だったりバイトだったり——が、ワーキングホリデーによって統合され膨らませられて、今また新しい視点でものを見ることができるようになった気がします。 –最後に、いろいろと考え込んでいる後輩にひとこと。 ものごとを自分で考えるというのは、一生役立つ能力ですよ。僕も1,2年生の頃は、大学の授業でもっと社会で役立つことを教えるべきだとか思っていました。でも、今役立つスキルは、今しか役立たないんです。10年後どうなっているかなんてわからない。自分の頭で考えるという能力は10年後でも20年後でも使えます。そのために、目先の資格や就活よりも、経験を統合するための何かをやってみるのがいいと思います。 –ありがとうございました。ますますのご活躍をお祈りいたします。